「この人たちは、私が知らない場所で、着実に、娘へと続く糸を手繰り寄せている」
探偵からの日々の報告メールを受け取る中で、私の中に育っていったプロへの信頼。
しかし、その信頼は、彼らが「何でもできる魔法使い」だからではありません。むしろ逆で、厳しい法律の制約の中で、最大限の結果を出すプロフェッショナルなのだと理解したからでした。
あなたも、そうかもしれません。
「探偵って、具体的に何をしてくれるの?」
「警察と、どう違うの?」
その疑問に答えるためには、彼らの華やかな技術だけでなく、その活動を縛る「法律」についても、私たちが知っておく必要があります。
この記事では、私が担当の鈴木さんから説明を受け、そして実際の調査で目の当たりにした、プロの調査技術とその限界について、具体的にお話しします。
なぜ、警察だけではダメなのか?「民事不介入の原則」という壁
まず、多くの方が抱く疑問、「なぜ警察だけではダメなのか」についてです。
警察に行方不明者届を出しても、「事件性がないと積極的には動けない」と言われた、と私は書きました。
これは、警察に「民事不介入の原則」というルールがあるからです。
個人の家出は、事件や事故の可能性が低い限り「家庭内の問題」と見なされ、警察が公権力を使って個人のプライバシーに踏み込むことが、法律上、非常に難しいのです。
行方不明者届は、万が一の時に娘の身を守るための、絶対に不可欠なセーフティーネットです。しかし、積極的に「探しに行く」という行動は、原則として行われない。この現実が、私たちが探偵という選択肢を考えざるを得ない、出発点となるのです。
プロはこう動く。しかし「何でもできる」わけではない
探偵の調査方法は、私たちが自力で行う素人のそれとは、全く次元が違います。しかし、その全ては、法律という名の厳しい鎖に繋がれています。
1. 聞き込み調査:情報を引き出す、心理的な技術
プロの「聞き込み」は、ただ話を聞くのではありません。しかし、公務員などを名乗って情報を得ることは、もちろん違法です。彼らは、調査目的を明かさずとも自然な会話の中で相手の警戒心を解き、情報を引き出すプロですが、その一線は常に意識されています。
2. 張り込み・尾行調査:違法行為と隣接する、緊張感
プロの調査員は、何時間、時には何日間も、対象者に気づかれることなく現場に溶け込みます。
しかし、この行為は常に、ストーカー規制法や住居侵入罪、プライバシー権の侵害といった違法行為と隣接しています。
アパートの共有通路に無断で立ち入らない。公道から、許される範囲を超えて家の中を覗き続けない。
法的な一線を越えずに、目的を達成する。それこそが、プロの技術の真髄なのです。
3. データ調査:アクセス「できない」情報がほとんど
これが、私たちが最も誤解しやすい部分です。
探偵は、私たちの知らない特別なデータベースにアクセスできるわけではありません。
彼らが行うのは、SNSの過去の投稿や公開されている情報から、行動パターンや人間関係を分析することです。
そして、何より重要なのは、正規の探偵には、絶対にアクセスできない情報があるということです。
- 銀行口座の記録
- 携帯電話の通話履歴や位置情報
- 住民票や戸籍といった公的記録
「携帯の位置情報から、すぐに見つけられますよ」などと言う業者がいれば、それは100%違法な手段を使う悪徳業者です。絶対に契約してはいけません。
依頼者自身を守るために
探偵業界は、残念ながら高額な請求や質の低い調査といったトラブルが後を絶ちません。
プロの技術を信じる前に、私たち自身が最低限の自衛策を講じる必要があります。
- 公安委員会への届出を確認する: 正規の業者は、必ず営業所の見やすい場所やウェブサイトに「標識」を掲示しています。
- 契約前に書面で全てを確認する: 料金、調査内容、解約条件などを、必ず『重要事項説明書』と『契約書』で確認し、安易に即日契約しない。
これらの自衛策は、誠実な探偵を見極めるための、最低限のフィルターです。
まとめ:制約の中でこそ、プロの価値は光る
私が探偵というサービスを理解して学んだ、最も重要なことです。
彼らは、特別な権力を持ったヒーローではありません。
厳しい法律の制約と、常に隣り合わせの倫理的なリスクの中で、それでも結果を出すために知恵と技術を磨き続ける、専門家なのです。
その「不自由さ」を理解すること。
それこそが、私たちが探偵と正しく向き合い、後悔のない依頼をするための、何より大切な一歩なのだと、私は思います。
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