調査開始。探偵から毎日送られてくる報告メールと、それに一喜一憂する私

調査開始。探偵から毎日送られてくる報告メールと、それに一喜一憂する私 家出~発見までの記録

分厚い契約書に、震える手で名前を書いたあの日。
探偵事務所のドアを出た瞬間、私は深い安堵感と共に、新たな不安に包まれていました。

「もう、私にできることは何もない」
「ここからは、プロに任せるしかないんだ」

娘の未来を他人である探偵に委ねるという、人生で経験したことのない、奇妙な無力感。
ここからが、祈ることしかできない、長く、そして濃密な日々の始まりでした。

この記事では、探偵との契約後、実際に調査が始まってから、娘の発見に至るまでの、私の心の動きを正直に綴ります。スマホの通知音に、心臓が飛び跳ねるほど一喜一憂した、あの数日間の記録です。

調査初日。「よろしくお願いします」の重み

契約の翌朝、担当の鈴木さんから「本日午前9時より、契約に基づき調査を開始いたします。全力で取り組みますので、よろしくお願いいたします」という、短いメールが届きました。

その、たった数行のビジネスメールが、これほどまでに重く感じられたことはありません。
「よろしくお願いします」という言葉に、私は「娘の未来を、お願いします」と、スマホの画面に向かって、何度も頭を下げていました。

その日から、私の役割は「捜索する母」から、「報告を待つ依頼者」へと変わりました。
自分で動き回っていた時とは違う、じりじりと心を焼かれるような、もどかしい時間。

仕事をしていても、家事をしていても、頭の中は探偵のことでいっぱい。
「今頃、どこを調べてくれているんだろう」
「何か、手がかりは掴めただろうか」

時計の針が進むのが、ひどく遅く感じられました。

スマホの通知音に支配された日々

面談の時、鈴木さんは約束してくれました。
「たとえ進展がなくても、3日に一度は必ずメールかお電話で状況をご報告します」と。

しかし、実際の報告は、もっと頻繁でした。
調査が始まってから毎日、欠かさず、夕方の18時頃になると、私のスマホがポロン、と鳴るのです。

その通知音が聞こえるたびに、私の心臓は大きく跳ね上がりました。
期待と、恐怖。
良い知らせかもしれない。
悪い知らせかもしれない。

メールを開くまでの、ほんの数秒。息が止まるような、あの緊張感を、私は一生忘れないでしょう。

【1日の終わりに届く、調査報告メール】

メールの内容は、非常に淡々とした、客観的な事実の記録でした。

件名:【〇〇探偵事務所】本日の調査ご報告

田中 さとみ様

お世話になっております。
本日〇月〇日の調査状況をご報告いたします。

【調査内容】
・〇〇高校周辺にて、ご友人Aさんの下校時の行動確認。
・Aさんが立ち寄った書店、カフェ等の確認。

【結果】
・現時点では、お嬢様に関する直接的な情報は確認できておりません。
・明日も引き続き、Aさんの行動確認を継続いたします。

〇〇探偵事務所 担当:鈴木

「今日も、何もなしか…」

その一文を見るたびに、がっくりと肩を落とす。
でも、メールの最後には、必ず「明日も引き続き…」という言葉がある。

その言葉だけを頼りに、「明日こそは」と、自分に言い聞かせる。
そんな、希望と失望の繰り返し。まるで、寄せては返す波のように、私の感情は毎日、大きく揺れ動いていました。

私の中に生まれた、プロへの「信頼」

調査開始から、5日が過ぎた頃でした。
その日も、いつものように鈴木さんから報告メールが届きました。しかし、その日の内容は、いつもと少しだけ違っていました。

【結果】
・ご友人Aさんが、放課後、普段の行動範囲とは異なる〇〇駅方面のバスに乗車したことを確認。
・現時点では、お嬢様との関連は不明ですが、明日以降、この〇〇駅周辺を重点的に調査いたします。

ほんの、小さな小さな変化。
でも、それは、闇雲に探し回っていた私には、決して見つけられなかった「プロの視点」による、確かな一歩でした。

このメールを読んだ時、私の中に、それまでの焦りや不安とは少し違う、新しい感情が芽生えていることに気づきました。

それは、鈴木さんたち探偵への、静かで、しかし絶対的な「信頼」でした。

「ああ、この人たちは、本当に娘のために動いてくれている」
「私が知らない場所で、着実に、娘へと続く糸を手繰り寄せてくれている」

そう思えた時、私は初めて、夜、少しだけ深く眠ることができたのです。

まとめ:信じて待つ。それも、母親の戦い

子どもを自力で探すことは、身を削るような戦いです。
でも、プロに任せ、ただ信じて待つこともまた、別の意味で、母親にとっての過酷な戦いなのだと、私は知りました。

スマホの通知音に一喜一憂し、淡々とした報告文の中に、かすかな光を探す日々。
それは、母親としての無力さを痛感する時間であると同時に、見えない場所で戦ってくれているプロへの信頼を、少しずつ育てていく時間でもありました。

そして、この静かな信頼こそが、次に訪れる「その瞬間」を、私の心が受け止めるための、大切な準備期間になったのです。

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